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- 【特集】メンバー間の主張の対立は、リーダーにとって組織変革のチャンス(後半)
3.調和のためには「目的」と「意味」を共有する |
では、このような調和はいかにして行われるのか、調和のプロセスとはどのようなものか、ということが問題になる。
先ほどの例を単純化して、コンピュータにたとえるとする。営業のデータベースを持ったコンピュータと開発のデータベースを持ったコンピュータという別々のコンピュータに、それぞれ売上向上という命題を与えたときに出てきた答えが、最初の2人の発言といえる。
それに対して、2台のコンピュータの演算装置を繋げ、各演算装置が2つのデータベースにアクセスできる状態で、売上向上という命題を与えるとする。それぞれのコンピュータが独自に処理をしながら、同時に協調処理も行われるときに出てくる答えが調和した解決策の単純な例である。
この例を人に当てはめると、調和のために必要なことは、異なる人の思考を「繋げる」ことだ。しかし、物理的に脳を繋げることが不可能であることは言うまでもない。そのように、異なる人が物理的に離れた状態で、思考を繋げるためには、2つのことが必要になる。第1は目的を共有すること、第2は意味を共有することだ。
「目的の共有」とは、裏を返せば、対立から逃げないということだ。チーム内で主張の対立が起きたとき、リーダーは反射的に、対立の悪化を回避する行動(多くの場合は妥協)を取りがちになる。しかし、それでは調和への道は開けない。調和という言葉は優しい語感を持つが、実際には「対立に対峙する」という強い気持ちを必要とする。
そのような認識に立つと、「目的」とは、単に与えられた命題に対する解を出すことではなく、与えられた命題に対して「調和した解」を出す、ということになる。つまり、調和自体が目的の一部となるのである。調和を欠いた目的はない、という認識をチーム内で共有することは、リーダーの重要な役割といえる。
しかし、目的が共有されただけでは十分ではない。それだけでは、個々の主張が融合する糸口が示されないからである。思考を繋げるためには、さらに互いに主張の「意味を共有する」ことが必要になる。それは、互いが相手の思っていることを理解できる状況を作ることだ。
相手の主張の意味を理解するためには、言葉で伝えられない意味が理解されなければならない。言葉は意味の一部を切り取って伝えることしかできない。また、言葉によって伝えられる意味は、受信者の持つフィルターを通して解釈されることになる。したがって、個々人がただ主張するだけでは、意味は容易に共有されない。
相手の意味を理解するための確立された方法は存在しないが、ここでは幾つかの視点を提示しよう。
1.違いに敏感になる
相手と自分の違いに敏感になること。そのためには、自分の主張を押し通そうとするのではなく、相手を理解することに意識を集中することが重要だ。自分が発した言葉と、相手がそれを受け取って返してきた言葉には必ず意味の違いがある。その違いに気づくことが相手を理解する糸口になる。
2.個人的な物語を聞く
たとえば、「うれしい」という言葉の意味を説明するのは容易なことではない。それを説明しようとすると、「うきうきした気分」などの別の言葉で言い換えるしかなく、結局、意味はよくわからない。「うれしい」の意味を知るためのもっとも簡単な方法は、その人がうれしかった経験を語ってもらうことだ。それによって、言葉による説明よりもはるかに豊かな意味が伝えられる。
3.価値観を知る
ある人にとっての意味は、その人が何を大切にしているかという価値観に大きく関連している。そのため、意味を共有するに当たって、相手の価値観を理解していることが効果的だ。特に、「かくあるべき」という外発的な価値観ではなく、個人の動機に起因する内発的な価値観を知ることによって、その人にとってなぜそれが意味あることであるかが理解しやすくなる。
これらは、どれもコミュニケーションに関わる問題だ。それは、プレゼンテーションやファシリテーションの技術といったスキルの問題ではなく、そもそも人のコミュニケーションとは何かという点に関わることである。これからのリーダーには、そのような深い次元でのコミュニケーション力が求められている。