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学習を支援する新しいIT活用のアプローチ

学習を支援する新しいIT活用のアプローチ

[2009.07.07] 松丘 啓司  プロフィール

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 誰もが感じている「研修の問題点」

「この前の研修はあんなに盛り上がって満足度も高かったのに、学んだことが現場で活かされている様子はどうも見られない」
「そもそも研修で学んだことが現場でどれだけ実践されているのか、知りたくてもわからない」
「現場からは、忙しい業務の合間を縫って研修に参加させたのに、いったい何を学んできたのかわからない、本人に変化が見られない、と不満が聞こえてくる」

このような声は人材開発担当者に共通の悩みでしょう。
「研修と現場の分断」は古くて新しい問題です。

この問題が生じる背景には、さらに2つの問題が存在します。
一つは、「研修で学習し、習ったことは自分で実践する」という従来の「学習観」の存在。もう一つは、研修と現場との分断を解消したくても、現実的なやり方がみつけられないという「方法論」の不在です。


 拭いきれないアウトサイド・インの学習観

「研修=学習」という意識の裏側には、受講者が身につけるべき知識やスキルは人の外側にあって、学習とはそれを内側に取り込むことという、いわば「アウトサイド・イン」の学習観が存在していると考えられます。

学校における授業の大部分が、このようなアウトサイド・インの学習観に基づいているため、企業研修においても、それが常識のように染みついてしまっているのかもしれません。

人材開発部門の担当範囲が教育に限られていて、現場というラインの範囲にまで踏み込むことが領海侵犯のように思わせる根本原因にも、このアウトサイド・インの学習観が存在すると思われます。つまり、教える側と実践する側が組織的に分断してしまっているのです。

いずれにせよ、学習を研修の場だけに閉じ込めている限り、研修と現場の分断はいつまでたっても解消できません。


 学習とは個人と組織の相互作用

アウトサイド・インの学習観が根深く存在する一方で、学習の大部分は現場での実践を通じて行われているということも、ほとんどの人が何となく感づいていることです。

知識やスキルを習得することが中心の学習であっても、学習の大部分は現場で行われます。たとえば、パソコンソフトのエクセルを使いこなすというシンプルな学習を例に見てみましょう。

研修でエクセルの使い方を勉強しただけでは、学習はやっと入り口に立った段階です。実践的なテクニックは、実際の業務で上司から与えられるさまざまなケースに対応する中で、試行錯誤を繰り返しながら獲得されていきます。

実践的なテクニックが身に付いただけでは、まだ、学習は終わりではありません。さらに、そのテクニックを用いて、チームに積極的に関与し、チームの仕事の生産性向上に貢献できるようになって、本当に周囲から「あいつも随分と学習したな」と思われるようになるのではないでしょうか。つまり、学習は個人のみで完結し得ないものなのです。

キャリア開発やリーダーシップ開発のように、受講者の行動変容を目的とする学習の場合は、なおさら現場での学習がメインとなります。

研修に参加しただけで、「彼女は社会人として成長したな」とか「彼はリーダーらしくなってきた」と周囲から認められることは、まずあり得ません。社会人として成長したり、リーダーらしくなったりするためには、現場でもまれることが不可欠です。

「現場でもまれる」とは、仕事における他者とのコミュニケーションを通じて、自分自身の考え方や行動をどう変えるべきかについて気づき、それに基づいて他者への働きかけ方を変えること、さらに、それが何らかの他者の変化を生み、そこからまた新たな気づきが得られるというダイナミックなプロセスです。

研修の場では何を学ぶべきか(What to Learn)、どう学ぶべきか(How to Learn)を理解させることによって、現場での気づきを加速させることはできますが、学習自体のメインステージは現場にあります。

つまり、学習とは、「他者とのコミュニケーションを通じて個人が変わり、個人が変わることを通じて組織が変わることを繰り返す継続的なプロセス」といえます。学習をこのように「個人と組織の相互作用」と捉えなおすことによって、研修と現場が分断されていてはまったく意味のないことが自明のこととなるでしょう。


 わかっていてもできない現実

これを読まれている読者の方々には、「そんなことはずっと前からわかっている。どうすれば現場での学習を促進できるかという方法論が問題だ」と思われる方も少なくないでしょう。

現実には、現場での学習の状況は人材開発部門からするとブラックボックスのようになっています。そのため、学習に対する動機付けも個人任せにならざるを得ません。また、個人の学習に対して積極的でない上司や職場があったとしても、手の打ちようがないというのも実際のところだと思います。

人材開発部門が現場での学習に対して積極的に関与しようとしても、今の業務に手いっぱいで、とてもそこまで手が回らないというのも現実でしょう。また、これまでにできてしまっている、人材開発部門とラインの組織の壁の問題も大きいかもしれません。

この方法論に対するこれまでにないアプローチ方法がITの活用なのです。


 これまでのIT活用との違い

筆者自身、過去に何度も学習におけるITの活用に取り組んだことがあります。

ビジネスシミュレーションというコンセプトの実用化がその一つです。このコンセプトは、一言でいうと効果的なOJTの場をパソコン上で実現しようとするものです。現場において人が実践的な知識やスキルを身につけるのに有益な場面を、システムによって体験させることで、人材の早期戦力化を目指すものでした。

また、IPS(Integrated Performance Support)というコンセプトの実用化にも挑戦しました。このコンセプトは、パソコンを中心に業務の流れを作ることで、業務に必要な知識やスキル獲得のための支援を、業務を行っているまさにその場面で提供しようとするものです。いわば、ジャスト・イン・タイムの研修を目指したものでした。

しかし、これらはどちらも知識やスキルの「獲得」を目的とした、アウトサイド・インの学習観から抜け出せていませんでした。世のなかのほとんどのeラーニング教材も同様です。

私たちが今回、提案するITの活用アプローチはまったく異なるものです。それは、ITを使って知識やスキルを伝授することを目的とするのではなく、ITを活用して現場での学習を動機付け、行動変容を支援しようとするものです。


 現場での学習を支援するモデル

ITによる現場での学習を支援するために、私たちが考案したコンセプトが図に掲げているD+5R'sモデルです。

D+5R'sモデル

このモデルについて、簡単に解説しましょう。

宣言する(Declare)
研修の中で現場において実施すべきアクションプランを他の受講者の前で宣言します。それによって、自らの行動を変えようとする決意を固めます。そして、そのアクションプランをシステムに登録します。

以下の5つのRが現場における学習を動機づけるための要素です。

思い出す(Remind)
現場における実践が進まない単純な原因として忘れてしまう、あるいは忘れていないまでも優先度が下がってしまうということがあります。それを回避するために、システムより定期的にリマインドメッセージを送ります。

記録する(Record)
これは子どもの頃に経験したラジオ体操のスタンプのようなものです。自分の行動実績の記録が蓄積されることによって、自分自身を動機づけます。

以上の2つが自分で自分を動機づけるための自己調整学習の要素です。

見守られている(Relate)
自分の行動が周囲から見守られているという感覚を生み出します。そのために、受講者は自分を見守ってくれるサポーター(上司、同僚、他の受講者など)を登録し、サポーターもシステムを通じて受講者の状況を知ることができます。

フィードバックを得る(Respond)
サポーターからフィードバックメッセージを送ります。応援されたり、有益なアドバイスをもらったりすることによって、受講者は動機づけられると同時に気づきを得ます。

以上の2つが他者によって動機づけられる他者調整学習の要素です。

自己調整学習、他者調整学習の結果、アクションが継続すれば、それは受講者の行動変容を促進します。その状況を自分自身で確認し、自己成長感覚を得るためにメタファー(暗喩)を活用します。たとえば、アクションの実行に応じて、植物が少しずつ成長するような画像を示すことによって、学習の進捗状況を受講者とサポーターの双方が、実感的に確認できるようになります。

振り返る(Reflect)
実践を繰り返しながら得られた新たな気づき、自分が行ってきたアクションやその前提となっていた自分自身の考え方などについて振り返り、自省することを促します。それによって、次なるアクションへの行動を支援します。


 現場での学習実態の可視化

これらの5つのRをシステムでサポートできる環境が整備されることによって、人材開発部門が今まで知りたくても知りえなかった、現場での学習の状況を把握することが可能になります。たとえば、誰が実践していて誰が実践していないか、どの職場が学習に前向きでどの職場がそうでないか、といった実態が明確に把握可能です。つまり、現場での学習の可視化が実現するのです。


当社では、現在、この現場での学習支援システムを開発中です。
近日中に、より詳細な内容を正式にお知らせする予定です。

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